9月議会の一般質問についてご報告します。【文字起こし】

遅くなりましたが、9月17日の市議会9月定例会でおこなった一般質問の文字起こしを掲載します。長文になりますが、読んでいただけると幸いです。(動画はこちら

なお後日、「下関の食と農について」の質問で一般品種と登録品種の分類や種の権利者について執行部の答弁が誤っていたことがわかりました。ページ末尾に追記として正誤表を載せております。ご確認ください。

1、公用タクシーチケットの使用について

本池 この問題については前回の一般質問でとり上げたが、公金支出、つまり予算執行についての責任を負う市長の見解を聞き忘れていたので、お聞きするものだ。
前回の一般質問では、4月6日の住民監査請求に対し「すべて適当と判断する」という判断を出されたので、そういった答えを出した根拠を質問させていただいた。そのさいに代表監査は「公務があった日はすべてその一日は公務があった日と議会は判断しているということで、帰りが公用車かタクシーの場合、すべて公務による乗車と判断した」といわれた。さらに公務証明がなく、公用車の使用もない日についても「公務等」、つまり公務と用務があったことが認められたといわれた。ただ用務については、「議長の立場と議員の立場が重なる私用ではないもの」としながら、その内容については確認されていないものもあり、「私用」との線引きも明確には答えられなかった。

あの監査結果は、端的にいうと

○公用車を使った日なら、私的な飲み会の帰りでもタクシー代は税金で支払ってよい。
○公用車を使った日なら私的な飲み会帰りに友人を送って大回りして帰っても、そのタクシー代は税金で支払ってよい。

と解釈できるものだ。

これでは市民の皆様は誰も納得しない。まず下関市議会みずからが公金の使い方について襟を正していくことが必要なのは当然だが、もう一つ、このような使い方が公金の支出として認められるのか、という問題がある。そこで支出命令を出す市長として、公用タクシーチケットの使用について、これまで見てきたような使い方がなされている事について正しいと思っているのか、誤っていると思っているのか、どうするべきと考えているのかお聞きする。来年3月には市長選も控えている。市民の皆様も注目しているところではあるので、市長としての見解を述べていただきたい。

竹内総合政策部長 住民監査請求のあった件については議会事務局庶務課を対象とした監査がおこなわれ、請求人が主張する「公務がないにもかかわらずタクシーチケットが使用された」とする内容は、結果としてすべて公務等があったと認定されており、市長としてもそのように認識している。

また同時に監査委員から市長あてに、議会事務局で使用するタクシーチケットに明文の使用基準がないため混乱が生じる恐れがあり、改善を必要とする旨の意見もいただいている。このことから、お尋ねのあった支出については適正であったということではあるが、使用基準の制定等を含め、疑義や誤解が生じないよう進めていくべきと考えており、議会事務局に対し7月1日付で、下関市議会公用車タクシー取扱要領を制定したことを確認している。

本池 総合政策部長は監査の結果について、すべて公務のあった日と判断されたということで、適正だった、ただ使用基準については明確にすべきだというお話をされた。内容については適正だったと捉えられるが、前田市長はどう思われるか、もう一度お願いする。

前田市長 総合政策部長がお答えさせていただいた通り、一般質問すべてにおいて、答弁の内容は担当所管と一緒に協議を重ねてだれがどう答えるかを決めている。市としての一致した見解だ。

本池 再度確認だが、市としてこのような使い方がされていたことについては「問題ない」といわれるということでよろしいか。

前田市長 私、議員の皆さんは政治家という立場だ。そのなかで市長・議長は組織の長を預かる立場で、ある程度の権限を委ねられている。政治活動について、私どもは公務のなかでそういった政治的な個人的な動きも含めて政務という扱いをしていて、議会の方は用務といっている。公務と政務・用務のとり扱いは線引きが非常に難しいところがある。それは本池議員も日頃の活動のなかで、これは明らかに政務、これは明らかに用務とはっきりわかる部分と微妙だなと思う部分と、けど市民のために動かなくちゃいけないという活動は議員として当然あると思う。そういった活動を続けていった結果、今こういった現実問題が目の前に来ている。私としては議長にも副議長にも話しているが、難しいなかで今回こういった問題をとり上げられて、問題としてはこれからどうするかということと、明確な使用基準が明記されていないので、市長も今回、今まできちんとやってきたつもりだが、よりきちんと、より市民のみなさんに胸を張って説明ができる公金支出、タクシーチケット利用の内容について、きちんきちんとした基準をつくっていこうということで、私もやったし議会の方にも求めた。

本池 用務という言葉が出てきたが、問題なのは、議長としてのものなのか、議員としてのものなのか、私用としてのものなのか、用務の線引きがすごく曖昧なところだ。議長としての場合は案内文があるので公務になるのだろうが、議員の立場と私の立場の線引きがなされておらず、それを前提にして「用務」に対して公金支出してよいとなると話が違うのではないか。線引きについては代表監査もはっきりといわれなかったし、一件一件確認していないといわれた。もし基準がないままの使い方がされていたのだったら、問題と思うのか、それでも正しいと思うのか、はっきり答えていただきたい。

前田市長 われわれは公金を使っている以上、私的に利用することは言語道断、絶対にしてはいけない。ただし今回のチケットの使い方については、今まで用務の線引きが曖昧だったからこういう問題になっているわけであって、その線引きをきちんと定めることが、今回の問題の提起を受けて解決する対応、処置だ。それで次からそういうことがないようにする。それで終わりだと思っている。

本池 この公用タクシーチケットだが、議会だけでなく市長、副市長、教育長にも公用車の代用として用意されている。一応、前田市長のタクシーの使用実態の調査については、公務証明と、公務証明のない日については秘書課よりすべてにおいて公務の内容についての説明がなされている。市長の公用タクシー券の使用については明確な基準があると思うので、それをいつ決めたのかということと、内容について述べてほしい。

竹内総合政策部長 市長・副市長の公用タクシーチケットの取り扱いについては令和2年4月1日に、市長・副市長公用タクシーチケット交際費取扱要領として、今まで慣例でおこなってきたものを明文化して制定している。これまでもタクシーチケットを厳正に使用していたが、改めて使用基準を明文化することによって、とり扱いの解釈に疑義が生じないよう、基準としては、公務使用を基本すること、および使用者は本人に限るとしている。

本池 タクシーチケットの問題が報道された後に一定の基準を設けたことがわかった。やはり公金なので、市民の皆様に納得される形で支出し、また議会としても疑いの目を向けられるような不名誉な状態を解決することこそ、みずからの存在価値とも関わって大切であるように思う。公平・公正な公金の使い方をお願いして、次に質問に移る。

 

2、下関の食と農について

本池 このたび、「下関の食と農」というテーマに目を向けてみた。理由の一つは、前例のない野菜の高騰だ。そしてもう一つ、今年の3月議会で一市民から「下関の農業と学校給食に関する陳情」が出されたことだ。陳情内容は、「農薬多用された遺伝子組み換え・ゲノム編集野菜や食品を学校給食に使わないようにする条例」「ゲノム編集食品の表示を義務づける条例」「農家を守るため、公共品種に関しては、登録品種であっても、農家による自家採種・増殖を認める条例」の制定を求めたものだった。

この陳情にかかわる文教厚生委員会、経済委員会ではそれぞれ陳情事項の内容について審議され、さまざまな意見は出たが、考えられる事態を想定したうえで結論を導き出すのではなく、条例制定は難しいとの結論のもとで、執行部からの説明を聞き、対応は委員長・副委員長に一任するということで終わったように思う。それぞれの委員会では「勉強をしていこう」という話にもなっていたが、一市民が危機感を持って陳情を上げているということは、陳情をとり扱う私たち議員がその内容について市民以上に知ったうえで判断しなければならないと、反省も込めて思った次第だ。

そこで種苗法について調べてきたが、農家の方や農協の方にお会いしても詳しい内容をご存じの方はおられなかった。種苗法の存在すらご存じない農家もあり、当事者が知らないあいだに決まっていく法改定とはどういうものなのか、このままでいいのかと違和感を覚えている。市民の代表である市議会議員として、また市民の命を預かる下関市として内容を理解し、食の根本になる種子・苗とはなにか、種苗法が改定されることで農業や食がどう変わるのか、具体的に考えなければならないと思っている。内容が多岐にわたるため、不十分さはあるかもしれないが、下関の農産物を事例に考えていきたい。

なお、質問のなかでは、改定法案のなかの自家増殖を原則許諾制にすることについて、許諾がなければ禁止になるという意味から「自家増殖禁止」と表現する。

本池 では、「種子法」「種苗法」とはなにか。

種子法(主要農作物種子法)とは、国の責任のもとで都道府県に主要農作物(コメ・麦・大豆)の安定的な供給をおこなうことを義務づけた法律だ。2018年4月に廃止されたが、これまでこの法律のもとで都道府県は主要農作物の種子の生産を公的事業としておこなってきた。一方で種苗法とは、種や苗を開発した種苗育成者の知的所有権(著作権)を保護するための法律で、前身の農産種苗法は1947年制定だが、全面改定による現在の種苗法は1998年にできている。

この種苗法の改定案が今年3月3日に国会に提出された。その中身を農水省の法改定の概要に沿ってみてみる(概要はスライド2枚目)。昨今の国内農産物の海外流出を背景に、それを防ぐため、育成者権者を保護し、育成者権を強めることが内容となっている。育成者権者を保護するというところに、自家増殖の見直しも含まれている。内容について間違いないか。

渡壁農林水産振興部長 基本的には、育成者権者の意志に応じて海外流出の防止をはかるとか、あるいは意図しない地域での栽培を禁止する、制限することができるようにする特例の創設、また自家増殖の見直しによる育成者権者の権利の強化、この育成権を活用するために育成権の侵害が疑われたさいの立証を容易にする制度の創設であると理解している。

本池 では問題になっているいわゆる自家増殖禁止についてだが、この対象となる「登録品種」とはいったいなんなのか。スライド3枚目のページをご覧ください。

登録品種とは、先ほど確認した種苗法にもとづいて品種登録された品種を指す。それ以外が「一般品種」になり、在来種、品種登録されたことのない品種、品種登録期限がきれた品種が一般品種となっている。ちなみに、登録品種の登録有効期間は野菜が25年、果樹などが30年となっていいる。

「登録品種」が今後どう変わるのか(スライド4枚目)。これまで自家増殖をする農家は、一度買った種子や苗を育て、そこから一部を種採りに回して翌年にまた植える、ということをくり返している。そこには、生産コストを抑える目的もありますが、地域の気候や土壌にあった種苗に種苗を開発し、より良質な野菜を栽培するという意味合いが大きいとのことだ。ずっと使っていると種子も劣化するそうなので、何年かに一度買い替えもおこなわれている。もし改定法案が通れば、農家はそれができなくなり、毎年種子や苗を買わなければならなくなる、もしくは、買うに等しい許諾料を払わなくてはならなくなる。ところが生産された野菜に求められるのは安さなので、農家負担が大きくなるというのが懸念されている点だ。

農家にとっては大問題だが、農水省は、「国内の農産物の9割が一般品種で登録品種は一割だから、影響は少ない」と説明している。3月の陳情に戻るが、経済委員会でも同じやりとりがなされている場面があった。このとき例としてコメが出され、下関市では97%が一般品種であると述べられている。「あまり影響はない」という意味かと思うが、改めて下関市内で生産されているコメのうち、一般品種の割合を答えてほしい。

渡壁農林水産振興部長 令和2年第1回定例会の経済委員会における陳情第3号についての協議のなかで市内で生産されている水稲の一般品種の割合について質問を受け、農業振興課の方から説明させていただいた。そのさいに97%が許諾の必要のない一般品種であるとの説明をしたが、その後、再度確認した結果、当時一般品種と認識していた「きぬむすめ」「恋の予感」「西都の雫」については登録品種であることがわかったので、市内で生産される水稲の一般品種の割合は正しくは68%となっている。

本池 委員会の場では、「97%が一般品種で、許諾制の対象になるのは3%」という前提で審議され、あまり問題にされていなかった。しかし、今の答えからすると、「97%が一般品種」という前提が間違いであり、許諾制の対象になるのは、コメに限って見ても30%にのぼる。その後、私が調べたなかでは、登録品種の割合が高い作物もあった。他の野菜について例示せず、コメのみを例示した理由を教えてほしい。

渡壁農林水産振興部長 一般的に広く農家のみなさんが栽培されているということで例示したものと理解している。

本池 わかりました。下関産米だけでも登録品種は30%になる。農水省は「9割が一般品種なので影響は少ない」と説明しているが、品目によって大きな差があり、コメやリンゴ、ミカンなどでは一般品種の割合が多い一方で、サトウキビなどのように9割が登録品種という農産物もある。具体的な農作物でみなければ、その影響はわからない。下関で生産されている農作物のうち、コメ以外の登録品種の割合や、自家増殖をしている農作物について把握されているか。

渡壁農林水産振興部長 野菜などになると様々な品目、品種が生産されているため、詳細な把握はできていない。国の資料によると、全国の資料になるが、コメでは登録品種の割合が17%、ミカンでは3%、リンゴでは5%、ブドウ13%、バレイショ10%、野菜9%と示されている。

本池 下関は県内でも野菜の生産が盛んな地域として知られている。垢田のトマト、吉田のナスなど、農家の長年の努力によってブランド化している野菜も少なくない。行政としても農産物のブランド化を推進してきたと思うが、であれば、それが影響を受けるのかどうか、実情を把握しなければ、下関の農業を守っていくことはできないのではないかと思う。

具体的に下関の代表的な農産物で見てみる。まず、有名な「垢田のトマト」だが、この品種名は「マイロック」というそうだ。これは一般品種か、登録品種か。

渡壁農林水産振興部長 登録品種だ。

本池 権利者は誰か?

渡壁農林水産振興部長 株式会社サカタのタネだ。

本池 次にアスパラガスですがこの品種は「ウェルカム」というそうだ。これは一般品種、登録品種のどちらか。登録の場合は権利者もお願いする。

渡壁農林水産振興部長 登録品種で、権利者は株式会社サカタのタネだ。

本池 次に吉田のナスだが品種は「大成」。これはどうか。

渡壁農林水産振興部長 登録品種で、権利者は株式会社ムサシのタネとなっている。

本池 今の3品目はすべて登録品種ということだ。だが、農家は種採りはしておらず、王司の農協育苗センターで毎年苗を購入して生産しておられる。農産物のなかでも産地型野菜は登録品種が多いそうで、下関もその例外ではない。
 では、横野の枝豆はどうか。品種としては「サッポロミドリ」「福だるま」「湯あがり娘」が使われている。

渡壁農林水産振興部長 一般品種となっている。

本池 では安岡ネギだが、「周次郎」「ダークスリム」「ブラックキング」などの品種だが、これはどうか?

渡壁農林水産振興部長 一般品種を使われている。

本池 農家の方に聞くと、ネギには夏用と冬用があり、周次郎、ダークスリムは冬用だ。そして特徴的なのは夏用の種子だが、「ブラックキング」などの種子を農協から買っている農家もある一方で、複数の農家でその家に代々ひき継がれている「地種」があるそうだ。これがいわゆる「在来種」だ。

安岡ネギといえば極細の「福ネギ」として全国的にも高い評価を得ており、「味、香り、色、日持ちの良さ」すべて兼ね備えた一品だ。安岡ネギならではの深い緑は、育成期間中に極限まで水をやらず「ストレス」を与えることで出てくるものだそうで、しっかりと土壌に根を張る強さと、密状態で植えることによる細さが良質なネギを生産するさいの秘訣だそうだ。出荷までの作業も非常に手がかかっており、とくに収穫したネギの外側を取り除き二股にして一束づつ作っていく作業は本当に手のかかる作業だが、これを家族や部会のみなさんで協力しあってやっておられる。

安岡ネギの場合、トマトやナスのように品種を統一しておらず、育て方を統一することで、同じ規格のネギを生産されている。以上5品目を紹介したが、下関の野菜のなかにも登録品種と一般品種があり、一つの品目の割合だけを見て「大丈夫」と安心はできない。

ここで質問だが、これまで述べてきた品目のなかで種苗法改正によって影響を受けると考えられる品目はどれにあたるか。理由も含めてのべてほしい。

渡壁農林水産振興部長 お話にあった五つの野菜、あるいは水稲について、実際に種子等を提供・販売しているJA山口県の方に確認したが、市内で生産される水稲、野菜について生産者の大半はJAから稲、種子を購入されており、今回の種苗法の改正で大きな影響を受ける品目はないと聞いている。また今、登録品種等においても許諾料的なものを含んだ価格で現に販売されているので、価格の方も種苗法が改正されたからということで、ただちに価格が上がることはないと聞いている。

本池 毎年買われているということと、すでに許諾料も発生しているということで、ただちに影響はないということだ。

一般品種は対象ではなく、登録品種についてもすぐには影響はないのだろううが、他のものはどうなのかという疑問もあるので、それぞれの品種にかかわる影響を見ていきたい。

まず問題になっている登録品種についてだ。登録品種のなかでも下関産のトマト、ナス、アスパラのように自家増殖してないものと、自家増殖によって苗を増やし栽培しているものとがある。代表的なのはサトウキビ、イモ、イチゴなどだが、こうした自家増殖を前提としている品目は、自家増殖が禁止になると毎年許諾料を支払って生産しなければならなくなるため、大きな影響を受ける。今下関ではそういうものはないといわれているが、これまでの何倍という費用がかさむようになり、経営が厳しくなれば倒産もありうるし、後継者不足にもつながる。

自家増殖については「他人が開発した品種を無断で増やすことの方に問題がある」ともいわれており、それ自体はごもっともな指摘だと思う。しかし、そもそもの話だが、自家増殖している農家は何十年とその方法で生産をしている。農家に聞くと、生産自体が自家増殖するシステムになっているため、現時点で購入しようと思っても農家が必要とする種苗は手に入らないという問題があるそうだ。自家増殖していない登録品種に関してはこれまで通りなのかもしれないが、育種権を強めていく法改定の対象ではあるので、今のまま栽培できるかどうかは不明だ。

次に法対象でない在来種を含む一般品種だが、今後、登録品種の許諾料が高くなることを考えると、農家が手を出せなくなる可能性もあり、そのさい一般品種の需要が高まることが想定される。その一般品種のおよそ7割を海外の種苗メーカーが占めているともいわれており、結果、「法改定で誰が得をするのか」、ということが指摘されている。

さらに在来種だ。在来種の多くが、農家が代々引き継いでいるもので、どれだけのものがあるのか農林水産省も実態は把握できていないようだ。この在来種も改正種苗法の対象ではないので、法が改定されても委縮したり制限されることはなく、これまでどおり種採りはできる。

ところが今後登録品種が増えていくことが考えられるなかで懸念されていることがある。その一つが交雑だ。花粉が風にのって交雑し、登録されている品種と混ざってしまった場合はどうなるのだろうか。

登録されている品種と似ている、ということで訴訟になったとき、登録品種を守る法律はあっても在来種を守る法律はない。今回の法改正には「侵害立証を行いやすくする」ことが盛り込まれているので、必然的に登録品種の育成者権を持つ者が優位になる。代々その種子を使い守ってきた農家が裁判によっていとも簡単にその権利を失ってしまう可能性もあるということだ。実際に海外ではそうした訴訟も起き、種苗メーカーに訴えられた農家側が敗訴している。
 下関でいえば安岡の地種のような地域に根付いてきた貴重な種苗がそういったことに巻き込まれてしまうのではないかという不安も感じるが、その点について守る術はあるのか?

渡壁農林水産振興部長 種苗法が改正されて手続きが固まってからということになるが、先ほどいわれた風などによって花粉が飛んで交雑する場合、基本的には特性が異なってくるものだと理解されている。そのもとに登録品種と違いを比べ確認するということで、国の方で対策を講じられるものと理解している。

本池 これまで特性表だけでなく現物で同じ条件の下で栽培して比較することもやられてきたが、それがなくなって特性表だけになることについては、どのように考えたらよいか。

渡壁農林水産振興部長 農水省の方においてそういったものについて、どういった規定の仕方にするのか、具体的に決められるものだろうと理解しているので、ある程度特性表のなかにおいて判断できる形になるのではないかと理解している。

本池 交雑についてはそのようなお答えだったが、種苗法の対象は登録品種ですが、在来種を含む一般品種にも間接的な影響がある可能性が危惧されていることは確認したいと思う。

そして、品種登録についてだが、品種登録するには、「いかにほかの品種と違っているのか」を証明しなければ登録ができないので、登録料などよりもそちらの方に莫大なお金がかかるものだそうだ。種苗育成者としては、その費用を回収しなければ赤字になるため、使う農家がいなければ種を増産できない。

実は先ほどお話した安岡ネギの地種からつくられた「YSG1号」という品種がある。権利者は山口県と農協で、農家の依頼に基づいて地種に選抜をかけ、品種として登録したものだ。2011年10月26日に出願し、出願公表を経て品種として登録されたのは2015年11月20日。当時のネギ部会の会長さんをはじめ、山口県や農協などさまざまな方の尽力でこの品種ができた。しかし、残念ながら現在「YSG1号」の種子は販売されておらず、農家が購入し育成することはできなくなっている。理由としてはさまざまあり、私にも明確にはわからないが、関係者のお話を伺うと、使う農家がいなければ新しい品種を開発しても、出回ることはないということがわかった。

このことは今、種苗育成者や種苗メーカーの経営が厳しくなっている問題にも直結するのではないか。
 安岡ネギの地種を使った試験・研究は今後も県の事業でやられるそうが、種子を使う農家がいて初めて、開発した種子も育成者も守られる。種苗育成者を守ることと生産者を守ることは紙一重だと思う。

本池 ここで、種苗法とよく混同される種子法を再度見たい。1945年の終戦から7年目、サンフランシスコ条約締結の翌月にできた主要農作物種子法は、「二度と国民を飢えさせない」という固い意志にもとづいてつくられました。この法のもとで都道府県では65年にわたり公的種苗事業がおこなわれ、地域にあった多種多様な種子を公共財として安く農家に提供してきた。

山口県でも農業試験場などで主要作物の新品種の開発や登録がおこなわれてきた。米の種子が生産されるまでには4年間かかり、原種農場での選抜と指定圃場での増産を経て厳選された種子が農家に渡ることになる。しかしこの法は、「民間の開発意欲を阻害する」という理由で2017年4月に廃止され、公的種苗事業の根拠は失われた。

そしてもう一つ、種苗法とかかわりの深い法律がある。それが2017年に制定された農業競争力強化支援法だ。この法律の中身について説明をお願いする。

渡壁農林水産振興部長 農業を成長産業とし、農業者の所得向上をはかるためには農業者が自由に経営展開できる環境を整備するとともに、農業者の努力だけでは解決できない構造的な問題に対処することが必要という趣旨から平成28年11月に国において13のとりくみ項目を掲げて農業競争力強化プログラムが策定されている。農業競争力強化支援法は、このプログラムに掲げられた13項目のうち種子を含む生産資材価格の引き下げ、または流通加工の構造改革といった課題に対応するため、平成29年に制定・施行された法律であり、官民の総力を挙げて種子・種苗の開発や供給体制を構築することを目的としている。

本池 8条4項をお願いする。

渡壁農林水産振興部長 法律が手元にない。

本池 8条4項では、公共事業として培ってきた種苗に関する知見を民間に積極的に譲渡するよう定めている。2017年にこの法律ができ、2018年には主要農作物種子法は廃止された。「種苗法が改定されても、今すぐに影響はない」ということだが、この二つとセットになったとき、これまで公的機関が提供していた安くて良質な種苗が外資を含む民間企業に渡り、種苗を毎年農家に買わせる体制が出来上がっていくことが指摘されている。民間企業は利益の出る種子に偏らざるを得ません。種子の寡占化が進めば、今ある多様な種子が失われていくことにもつながり、それは病気でも広まれば、農作物が全滅する事態につながる可能性もはらんでいる。生命維持の観点から考えても、種子の多様性は重要だと思う。

そもそも、種苗法改定は「海外流出を防止する」という理由が前面に押し出されているが、海外流出については過去から問題になっており、農水省自身が唯一の防止策として「海外で品種登録することしかない」といっている。では改定の目的はなんだろうかと、疑問に感じざるを得ない。

こうした農業や食に関する問題に対し、農業者や消費者に危機感が広がり、種子法廃止以後、全国の都道府県で地域の種子を地域で守る条例を制定する動きが広がっている。全国の条例制定の状況と、山口県の状況について教えてほしい。

渡壁農林水産振興部長 平成30年4月、主要農作物種子法が廃止されて以降、それまで同法にもとづき稲、大豆、麦類の種子生産を担ってきた各都道府県において条例を制定しているのは令和2年8月現在で21道県となっている。山口県においては平成30年3月に「山口県主要農作物種子生産実施要項」を制定しており、要項に定めたとりくみを着実に実行するより、県の役割を適切に果たすことができることから、条例の制定は考えていないと説明されている。

本池 条例制定は今年6月現在で21道県、この9月定例会で千葉県が加わり、制定済みは22道県になるそうだ。

山口県は要綱で対応するといわれたが、要綱は行政内部の指針でしかなく法規としての性質をもちあわせていない。その点、条例は法規になるので権利の行使を制限することができる。全国で条例制定が広がっているのも要綱では守れないからではないだろうか。

とはいえ山口県でも、「将来を担う子どもたちに安心して食べられるものを残したい」という思いから、地域の種子について考える動きが、お母さん方や保育関係者、教育関係者を中心にすでに始まっている。

「種子は過去からのおくりもの」という言葉を私は農家の方から教えていただいた。どの品種も改良こそ重ねているが、昔から種をつないできてくれた先人たちのおかげで存在しており、一時の誰かの儲けのために利用していいものではない。

最後に、これまで見てきて種苗法のはらむ問題について少しでもご理解いただければ幸いだし、下関にある種子や農業についてもっと市民間で情報を共有していく必要があるのではないだろうか。議論のなかではコメが一番影響を受けるという指摘もなされている。法改正になぜ「賛成」なのか、「反対」なのかも含めて農業形態の部分から整理し、市民みんなで食と農の問題について考えていく素地をつくる必要があると思うが、現段階でどのような考えをお持ちだろうか。

渡壁農林水産振興部長 現状としては先の通常国会では十分な議論ができなかったことから、現在継続審議案件ということで次の国会の方で改めて審議されることになっている。改正内容や改正による影響について、農業者や消費者の皆様からさまざまな懸念があることは承知しているが、法改正の趣旨については初めに説明したように長い年月や相当の費用をかけて開発された我が国の優良な品種が海外に流出し、他国で増産される、あるいは第三国に輸出されるといった事例も生じているということで、国内の品種開発者、育成権者の意志に応じた対策ができるようにということで、国として必要な対策を講じていこうというものと理解している。

対応だが、今後さまざまな疑問点において、国において十分な議論がなされると認識しているので、種苗法の改正が農業者にとって大きな負担となるものではないか、あるいはそういったことで引き続き情報提供に努めるとともに、みなさまの理解が一層進むよう情報提供に心掛けていきたい。

本池 農業生産で見たとき今も下関市は山口県下で最大の産地だ。しかしながら、「統計しものせき」を見ると昭和45年に約2万3000人いた農業就業人口は平成27年には約5200人と当時の2割ほどまでに減少している。生産額でみても、平成6年に116億円以上あったものが、平成26年には47億円ほどと、半分以下にまで落ち込んでいるのが現状だ。これは豊北町や豊田町など農業を中心としてきた地域の急激な人口減少とも大きくかかわっていると考えられる。市として農業をどのように振興し活性化させるかを考えていなかければならないときに、農業や食の安全について大きな影響を与えることが議論されている法改定について、「国が動くだろう」とか「国が大丈夫といっているから大丈夫」という待ちの姿勢ではなく、独自に調査し、どのように地域の農業を守り、振興していくのか考えることが必要ではないかと申して、質問を終わる。

 

【追記】

後日、農業推進課より、9月議会での一般質問における渡壁農林水産振興部長の答弁で一般品種と登録品種の分類や権利者について複数の誤りがあった旨、説明を受けましたので、以下のように訂正いたします。