
広島市北部医療センター安佐市民病院(広島市安佐北区)
7月13日に文教厚生委員会の視察で広島市安佐北区にある広島市立北部医療センター安佐市民病院に行ってきました。下関市では、下関市立市民病院(向洋町)と下関医療センター(上新地町)を統合した新病院の建設が動いており、6月に基本計画が策定・公表されました。今後、設計・施工の事業者の選定がされ、基本設計・実施設計ののちにいよいよ建設が始まります。基本計画は下関市のホームページで公開されていますが、これに対しさまざまな意見が出ているのも事実で、こうした声を受けながら具体的な中身については調整がおこなわれていくようです。下関市民にとっていい病院にするため、先行事例を見るというのが今回の目的です。遅くなりましたがご報告します。
北部医療センター安佐市民病院とは
北部医療センター安佐市民病院は2022(令和4)年に旧病院(旧安佐市民病院)を移転し建設されました。広島市中心部から約15㌔離れており、電車や車で40分ほどかかる場所にあります。広島市内には広島市民病院(743床)、広島大学病院(742床)、広島赤十字・原爆病院(565床)など大きな病院がいくつもあり、JR広島駅新幹線口のそばに「高度医療・人材育成拠点構想」による860床の新病院建設が進行中です。
北部医療センター安佐市民病院は、移転前の旧病院をはじめ、近隣自治体の公立・公的4病院の再編・ネットワーク化の一環として整備され、広島県北西部、島根県南西部までを含む広範囲な地域の急性期医療を支えています。【「市内」から遠い、だから守備範囲が広い】【広島県北西部のさいごの砦】といわれるように、広島県北西部の救急診療、がん診療、多くの診療科の最新医療を地域住民に提供しているほか、高齢者救急を地域の医療機関と連携し対応しながら、日本の高齢者人口がピークを迎えるとされる2040年に向けたとりくみをしておられます。病院を運営しているのは、「地方独立行政法人広島市立病院機構」で、法人ではほかにも3つの病院を運営しています。
新病院建設にかかった費用は総額312億円で、そのうちわけは建設費が約220億円、土地代が約20億円、医療機器の整備費が約65億円で、残りが引越し代ということでした。市が企業債を借り入れ、返済は市と独立行政法人で半分ずつの負担になっており、すでに市の負担分は運営費負担金として法人に支払われています。
移転前の旧安佐市民病院は527床の病院でした。新病院は434床ですが、車で5分程度(3㌔㍍)の旧病院の場所に102床を残し、これは「安佐医師会病院」となっています。医師会病院には地域包括ケア病床、緩和ケア病床があり、安佐市民病院で手術等をしたのちすぐには自宅に帰られない患者さんは安佐医師会病院に転院しリハビリなどをして自宅に戻るという流れになっているそうです。そのため安佐市民病院は、在院日数が7・8日となっていて、これは国内の高度急性期病院で「一番短い日数」となっているそうで、地域の病院や医療を担う医師と連携して地域の高齢者を見ているということでした。
移転・建て替えの経緯
旧安佐市民病院は南館・北館で構成されていましたが、南館は1980(昭和55)年に建設されており、老朽化が進んでいたそうです。また、耐震基準を満たしていないことや、診療科の増設等による狭隘化が進み、新たな医療機器を導入することができないといった課題が生じたことから、2012(平成24)年、移転も視野に入れた病院の建て替えの検討を開始、2013(平成25)年には「現地建て替え」「移転建て替え」両案での基本構想が策定されました。
同年9月~10月にかけて地元説明会を実施(15カ所、参加者約1000人)したうえで、2014(平成26)年2月に移転建て替えを前提とする基本計画策定にかかる補正予算案を議会に提出しましたがこれを議会が否決。このとき賛否は同数だったそうですが、当時の議長が「議論が十分にされていない」と判断し、否決という結果になったそうです。
2015(平成27)年8月に市長による地元説明会が実施され、9月に旧病院の機能を一部残すことを含んだ機能分化の考え方として、「安佐市民病院の建て替えに伴う医療機能の分化整備について」を策定。同月、安佐市民病院の建替えを盛り込んだ病院機構の中期計画変更案を議会が可決しました。
「分化整備の考え方」には、広島市として、地域住民の思いに真摯に向き合いながら、安佐北区のまちづくりに資するため、
①JRあき亀山駅前には高度・急性期医療機能、災害拠点病院としての機能、へき地医療機関としての機能を整備すること、
②旧安佐市民病院北館には、日常的に高齢者等の地域住民が受診できる機能を整備すること、
が基本方針として掲げられ、これに基づいた分化整備がなされました。
交通網や経営面には課題も
こうして広島県北西部、島根県南西部地域の中核的機能や役割を担う「北部医療センター安佐市民病院」が2022(令和4)年5月1日に開設となりました。病床数は434(一般病棟414床、精神病棟20床)、診療科目は33科となっています。「救命救急センター、ヘリポートを整備した高度で先進的な医療の拡充」「災害拠点病院としての機能の拡充」「県北西部地域等の病院支援と患者の受入の拡充」が担うべき医療の基本的な方向性とされています。
災害拠点病院として、免震構造の採用、病院1階部分(約1万5000㎡)をトリアージ・処置スペースとして使用することで約4000人の被災傷病者の受け入れを可能とするつくりになっています。感染症対策としても病棟に被災傷病者が上がらずに済むつくりになっていますが、面積が広いため、外来の高齢者が歩く距離が長くなっているということです。
交通網の整備
病院の移転にともなって重要になるのは交通です。下関市でも現在の下関医療センターや市民病院がなくなることには不安の声があり、高齢者をはじめみんなが安心して通院ができる交通網の整備が課題の一つです。
安佐市民病院の場合、JR可部線あき亀山駅に隣接して建設され、駅から病院入り口までの歩行者通路には屋根が設置されています。雨の日でもホームから濡れずに病院に行くことができる動線になっています。あき亀山駅はJR可部線電化延伸事業(可部駅から1・6㌔の区間の延長)で新設された駅で、もう一つの新設駅(河戸帆待川駅)の整備等あわせて27億円の事業費がかかっています。財源内訳としては、国が3分の1、市が3分の2です。

さらにバス路線も再編されました【㊤図参照】。複数の事業者が競合する区間もあり、広島市として、事業者間の調整、バス停設置場所の選定、バス待機場所の確保に苦労したそうですが、病院に乗り入れる路線が新規を含め増えています。ただ、高度急性期病院であるため、家族が車で連れてくることも多く、バスの利用は少ないのが実態です。バス運行の赤字に対しては市が事業者に補助金を出していて、その一部を病院も負担する仕組みになっています。病院としてもバスの利用を推進しているようですが、患者にも、病院に勤めている職員のみなさんにも使いやすい公共交通を整備することの難しさを感じました。病院スタッフのなかでもバス通勤は3%ほどにとどまっており56%が車で、来院や通勤のために924台の駐車場が整備されていますが、「患者用」「職員用」ともに不足状態にあるとのことでした。
病院の経営状況
計画時の収支のシミュレーションでは、はじめの二年間は赤字でその後黒字化する計画になっていたそうですが、開業以降赤字の状態となっています。計画通りにいっていない理由の一つが職員の人件費にあり、旧病院から病床数が減ったため職員も減る想定になっていたそうですが、実際は病棟が増え、看護師が減らない状況になって計画とは大きく変わってきたそうです。また近年の材料費、人件費が毎年のように上がるなかで黒字化にはいたっていません。また、法人では4つの公的病院を運営していますが、2024(令和6年)度の診療報酬改定により、昨年度は4病院とも赤字となり、資産を切り崩しながらの運営となっているそうです。今年の報酬改定でも物価上昇に追いついておらず、中東情勢の影響もあるなかで医療現場の厳しさは続いています。今年度より、広島市からの運営費負担金が増額となり年間約80億円になるそうですが、それでも厳しさは今後も続く見通しを語っておられました。
個室需要は想定を下回る
そのほか、計画で描いていたことと実態の差異という点では病床の個室化が挙げられます。同病院では50%を個室化したが、開業5年目の現状として個室のニーズが思ったよりも多くないとのこと。高齢者の方は個室ではなく多床室を望まれるようで多床室が足りなくなっている実情があるようです。多床室を望む人を個室に入れるようになってしまうため、本来有料であるはずの個室料金をいただくことができないということでした。
下関市の新病院の基本計画にも、「全室個室化が可能なレイアウトにより患者のプライバシーに配慮」「良好な療養環境を整備」となっていて、「時代的にも…」という言葉が聞こえてくるところです。容態にもよりますが、同室の患者さんとおしゃべりをしたい人もいるでしょうし、有料の個室を望まない人も多いと思います。こうした細かい部分についても、患者となる市民がなにを求めているのかという視点で再度見ることが大事だと思ったところです。最後にヘリポートにも上がりましたが、ヘリでの搬送は1年間に70~80件ほどあり、多いときはひと月10件ほどの搬送があるそうです。
下関市民に望まれる病院を
病院を運営している法人、行政の方々からお話を伺うことができ、下関市の新病院建設の今後を議論するうえでも大変参考になりました。人口規模も地域の実情も違うので、病院や行政として説明が難しいことがあるのだと思います。ただ、市民側からの目線として、地域から病院がなくなってしまうことへの不安や、交通網の整備に対する不安など共通する部分も多くあり、移転が決まるまでに市民と行政の間で相当なやりとりがあったことが伝わってきました。
北部医療センター安佐市民病院の移転・建設を含めた再編では、急性期を担っていた病院が診療所に変わったり、「急性期・慢性期」から「回復期・慢性期」に変わった病院もあります。今回、高度急性期・急性期を担う拠点病院の整備や交通網の整備について説明をいただきましたが、一方で広島市民の方々は今の状況をどう感じておられるのかというのは気になるところです。
医師の偏在や高齢化、看護師などの医療人材不足、人口減少、高齢化など課題は山積しており、根本には国が責任をもってかかわらなければ自治体だけで解決するものではないと思っています。下関市でも地域資源が急激に減っていくなかでの厳しさがありますが、市民が安心して暮らしていくために必要な病院とはどのような病院なのかを関係者の方々や市民のみなさんと一緒に考えていきたいと思います。説明をしていただいた行政や法人の皆様、ありがとうございました。




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