【委員会視察報告】下関市の救護施設「梅花園」の現状と課題について。

下関市唯一の救護施設「梅花園」(下関市永田郷)

下関市議会では毎年委員会ごとに市内・市外で視察をおこないます。今年度から私は文教厚生委員会に所属しており、このたび市内視察で、救護施設「梅花園」(下関市永田郷)と、今年4月にオープンした「福祉プラザしものせき」(下関市上田中町)に行ってきました。

救護施設・梅花園は、これまで下関市が運営してきたものですが、2022年、養護老人ホーム「陽光苑」とともに下関市が社会福祉事業団に事業譲渡した施設です。市は2016年に策定した下関市公共施設等総合管理計画にもとづき、20年間で30%の公共施設の延床面積を削減するとして、施設の廃止、売却、民間譲渡を進めてきました。梅花園も陽光苑もその一つで、「民間での提供が可能」という理由から、築36年の建物と事業を当時指定管理者だった社会福祉事業団に譲渡した経緯があります。譲渡から3年が経過していますが、施設の老朽化をはじめ、物価上昇のなか事業収入が措置費しかないことによる運営の厳しさが指摘されています。

こうした事態に直面し、当時もっとこの施設の役割や市民生活にとっての必要性を確認し、本当に民間譲渡をしていいのかどうか、徹底的に議論すべきであったと私自身、反省を込めて思っています。そして譲渡後の課題については市議会として把握しておかなければならないとの思いで文教厚生委員会の視察先として提案したところ、委員長の判断により視察が実現しました。

市内唯一の救護施設

梅花園では園長をはじめ施設の方々、社会福祉事業団の理事長、事務局長が説明をしてくださいました。以下、その内容を紹介します。

梅花園は市内唯一の救護施設です。救護施設は生活保護法に基づく措置施設で、身体上、または精神上著しい障害があり日常生活を営むことが困難な人に対して、生活扶助や自立を目指した支援をおこなっておられます。

毎日の生活扶助は、食事の提供(朝食、昼食、おやつ、夕食)を基本に、病院受診や健康診断があります。入所者全員が生活保護を受けておられ、9割の方が精神や知的障害があります。多くの方が病院を受診されますので、送迎とつきそいをスタッフの方々がされるほか毎日の配薬もあります。健康診断には下関病院の医師の方が来られるそうです。入浴、洗濯、居室清掃の介助、散髪をしたり、生活用品やおやつ等嗜好品の購入にも一緒に出向くなど、自立を目指した支援をおこなっておられます。

入園者のリフレッシュのために、季節行事のほか、昨年度は火の山ロープウェイ、海響館、「レノファ」サッカー観戦などの外出行事をおこなったり、夏祭りにはキッチンカーを招いたり、新型コロナで中断していた慰問の受け入れを再開しミニコンサートを開催されたそうです。入園者とともに、園内清掃や草取りなどの美化活動もしておられ、花壇の手入れや畑での野菜の育成・収穫もしておられます。その一部は地域の方にも配布するなど、日頃から地域との交流を深めている様子も伝わってきました。

そのほか、自立支援のとりくみとして、近隣の「陽光苑」のトイレ清掃やランドリーへの職業体験を通じて、自立した生活へ向けたステップにされています。

設備と職員の配置状況

そうした支援をおこなう梅花園の施設概要は、鉄筋コンクリート造平屋建で、敷地面積は約6792平方㍍、建物面積は約1739平方㍍となっています。定員は50人で、4人用畳部屋が14室、特別居室1室となっています。1部屋10畳ですので、1人当り2・5畳です。職員体制は、施設長1人、事務員1人、指導員2人、介護職員・介助員11人、看護師2人、栄養士1人、調理員5人の合計23人(うち非常勤10人)と医師1人(嘱託医)で、入園者の生活を支え、自立支援をしておられます。ここに平均49人の方が入園されており、長い方では20年以上になる方もおられます。ほとんどの方が身体、知的、精神、または複合的に障害があり、こうした方々は主に生活困窮による緊急的な措置で入園されていますが、なかには集団生活があわず退園に至るケースもあるそうです。

この間、新型コロナやインフルエンザの集団感染も起きており、なかでも2024年末から2025年初めにかけて起きたインフルエンザの集団感染では、入園者21人、職員8人が感染したそうです。御用納めで行政も病院も休みに入っているなかで対応しなければならず、園長自ら運転して日々入園者を病院まで連れていくという過酷な状況でした。前後しますが、新型コロナの集団感染も起きており、業務継続計画(BCP)をはじめとした取組や対応が課題となっています。職員体制が潤沢ではないなかでも能登半島地震に伴う介護職員等の派遣要請に応じ、2023年、24年に金沢市や輪島市に職員を派遣され、福祉避難所における生活支援業務に当たられています。

地域生活への移行支援

 梅花園に入園される方のなかには、病気、障害、通院や服薬ができていない、金銭管理が難しい、アルコール依存、アパートや自宅の退去、退院後に戻る場所がない、入居施設での強制退去などに加え、家族からの虐待、長期の引きこもり、刑務所からの出所などさまざまな事情を抱えた人がおられます。入園後は個人の状況にあわせ自立を目指す支援を盛り込んだ個別支援計画を作成し、この計画に沿って、規則正しく活動的な生活ができ、健康と意欲を取り戻すことを目指しておられます。地域生活への移行を目指す方には、前記のような就労に向けた社会体験を提供し、グループホームやアパート暮らしへ繋がるケースもあるようですが、住居確保については、身元引き受けの親族等がいない場合が多いため入居手続きに苦心されているとのお話でした。

事業継続には課題山積

譲渡後の事業継続にあたっての課題の一つ目は、「定員50名の充足率向上を目標とした安定的な運営のとりくみ」です。

2022年から事業団で運営しなければならなくなっていますが、前提として措置施設ですので、措置機関(市)からの措置によって入所が決まります。生活保護事業収入だけが収入となりますので、充足率が下がれば収入も減る関係にあり、事業の継続は厳しいものがあります。措置された方については受け入れを積極的にされているようですが、部屋の狭さを理由に断られるケースが少なくなく、昨年度も5名の方が見学に来られたようですが入所になったのは一人だけで、時代に即していない施設が事業の継続にとって大きな障壁となっています。

そして、このことと直結する課題となっているのが、「事業譲渡後の建て替えの推進」です。2022年の事業譲渡のさい、市有財産譲渡契約により令和13年度(築45年)までの10年間は「現在の施設を救護施設の用途に供する」ことが決まっており、事業をしつつ将来的な施設の建て替えの課題に直面しています。事業団としては、2024年11月に広島県呉市の救護施設を視察されていますが、用地と財源の確保が大きな課題です。

今年7月10日には前田市長に対し、建て替えのさいの公有地の確保と、建設資金の確保の支援を要望しておられるとのことで、今月中には萩市の福祉複合施設を視察される予定です。建て替えの財源となる預金は財団にはないなかでの2022年の「譲渡」であり、事業団としては事業の継続のために建て替えに向けた道筋を懸命に模索されています。

建て替えが切実になっている背景には、新型コロナの流行があります。2022年には園内でクラスターが発生しており、この経験からも感染症に対する予防対策が必須となっています。現状は4人部屋で、1人が発症したら他の3人を別の部屋に移すことができず、ご飯を3食弁当にして部屋に運ぶ日々であったといいます。仕切りもない狭い部屋に大人4人。出たくても何日も出られない。当時の状況は言葉になりません――と涙を流しながら語っておられました。

施設の老朽化だけでなく、感染症対策やICT対応等の設備機能が不十分であること、機能の老朽化も顕著であることからこれらの課題解決として建て替えは待ったなしになっています。事業団の方は「リミットは7年」といわれており、時間は多く残されていません。

市が責任を持ち改善を

さらに事業団の方の説明では、救護施設は介護サービスのように独自の経営判断で入所者を入れていける施設ではないため、決まった措置費のなかで経営をしていかなければならない実情が紹介されました。社会福祉事業団のホームページの予算書をみると、梅花園の収入は生活保護事業収入の1億7288万8000円だけです。例えば、昨今のコメに代表される食料品の高騰、日用品や光熱水費の高騰、人件費の高騰に措置費が追いついているのでしょうか。日常の業務がどうなっているのかについて、もっと調査し課題を明らかにしていく必要があると思っています。

座学ののち、施設内見学をさせていただいたのですが部屋の狭さは想像以上のものでした。10畳の部屋に布団を敷く仕様ですが敷けば足の踏み場はありません。間仕切りもなく「プライベートもなにもない」といわれていました。トラブルが起きるのは当然で、そうした場合の部屋の組み合わせにも苦慮しておられるそうです。昔はこの基準でよかったのかもしれませんが、憲法25条にもとづく施設がこのような状態であることに衝撃を受けましたし、社会福祉事業団のみなさんが必死に訴えておられる意味が分かりました。

視察時間はわずか60分でしたが、他の議員のみなさんも現場の状況を重く受け止められていたように思います。長年議員をされている方も「20年やっているが初めて来た」といっておられ、まさに陽の当たらない現場であったのだと感じます。「だれ一人取り残さない社会」の「最後の砦」といわれる救護施設ですが、こうした現場にこそ光を当てていくのが行政の本来の役目ではないか、今の下関市は行政本来の役割を果たしているのか――と考えさせられました。

議員2期目になり福祉分野へかかわることが増えてきましたが、そうした現場に接するたびに、いつ、誰が、支援を必要とする立場になるかわからず、一人一人、今は生活が成り立っていても、なにかのきっかけでそのバランスはたちまち崩れてしまい、自分ではどうしようもできない状態に陥るものだと思っています。そしてそれは年々深刻になっています。だからこそ、崩れ落ちる前に支えたり、崩れ落ちても抱きかかえるような仕組みを社会全体でつくっていかなければならず、救護施設もその一つだと思います。社会福祉事業団に譲渡し「面積が減った」と喜んでいる場合ではなく、陽光苑も含めて譲渡が妥当であったのかどうかも検証が必要であるように感じます。

梅花園の視察後は福祉プラザに移動し、社会福祉協議会の方々に重層的支援体制の説明と館内の紹介をしていただきました。一番に、下関市の福祉全般を担っていただいている社協のみなさんの職場環境が改善されたことは本当によかったと思いますし、このプラザが核となり地域福祉がより充実したものになっていくことと思います。私も現場の方に学びながら少しでも役にたっていきたいと思います。

一方で、福祉の当事者がいる梅花園の実態との落差を感じたのも事実です。目前の課題としての建て替えについては行政が責任をもって予算と土地の確保をすべきだと感じていますが、要するに、最後のセーフティネットを市がどう考えているのか、その姿勢が問われているのだと思います。

 最後に、視察を通じ議員が現場に足を運ぶことの重要性を改めて感じています。

 2022年の譲渡のさいに当該施設に足を運び施設の役割や実態を掴んでいたら、市が事業を手放すことについて市議会内で議論をもっとできたかもしれません。それは現在もまったく同じで、現場を知る努力をし続けていこうと思うと同時に、今回、こうした視察ができたことは本当に良かったと思っています。説明していただいた梅花園、社会福祉事業団、社会福祉協議会のみなさま、福祉部の方々、ありがとうございました。