7月3~5日の日程で、経済委員会の視察で愛媛県今治市と愛知県常滑市に行ってきました。大雨の時期と重なったこともあって大変遅くなりましたが、今回、「住みたい田舎」ベストランキング1位(宝島社『田舎暮らしの本』2023年度版)にもなっている今治市の視察内容を報告します。
今治市の視察のテーマは、「今治市の食と農のまちづくり~地産地消と食育のすすめ~」です。数年前から委員会視察で今治市を希望しており、その理由は今治市が学校給食を中心にした地産地消のとりくみの先進地で全国的注目を集めているからです。下関市では現在、学校給食調理場の老朽化にともない、22校を集約した民設民営型の大型センターの建設が進んでいますが、今治市は真逆で、大型センターから自校式の単独調理場や親子方式の小規模調理場への転換を進めてきた経緯と実績があります。なぜそうなったのか、学校給食を中心にした地産地消の推進がもたらした効果はどうなのか、課題をどのようにクリアしてきたのか。これらのことを知り、下関市の行政に反映できればと思いながら視察に向かいました。
食と農のまちづくり全国に先駆けた取組
今治市では市役所で農林水産課と学校給食課の職員の方々から説明を受けました。
今治市は全国に先駆けて30年以上前から食と農のまちづくりのとりくみをおこなってこられました。その始まりは1982(昭和57)年1月の市長選挙で、老朽化した給食センターをどうするのか、ということが争点になったことに始まります。大型の給食センターの建て替えをかかげる現職と、自校式調理場を推進する新人候補が立候補し、新人候補が当選しました。それから、新市長を支持した今治立花農協の方々が、「自分たちがつくった安全な食べ物を子や孫に食べさせたい」と、学校給食に地場産野菜や有機農産物を導入するよう求める陳情を提出されました。
その後、徐々に自校式調理場への転換が進むなか、1988(昭和63)年3月には、今治市議会が「食糧の安全性と安定供給体勢を確立する都市宣言」を決議します。宣言には、輸入食料に含まれる残留農薬や化学肥料の使用等への懸念から、「市民の健康を守る食生活の実践を強力に推し進める」ことが明記されています。
この宣言を受け、1999(平成11)年からは学校給食米を今治産の特別栽培米(農薬・化学肥料を50%以上削減)に切り替えたり、2001(平成13)年9月には地元産パン用小麦を使ったパン給食を開始。さらに翌2002(平成14)年には学校給食用豆腐の原料大豆の今治産への切り替えが始まります。
2005(平成17)年には12市町村が合併し新たな今治市となりますが、新市議会において「食料の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」【写真】が決議され、2006(平成18)年には「今治市食と農のまちづくり条例」が制定されます。この条例が今治市の食と農のとりくみの根拠となっており、時代の変化等あるなかで現在も食と農のまちづくりがおこなわれています。
「今治市の食と農のまちづくりのとりくみは、約40年前の消費者運動や農民運動などの市民活動に端を発しており、行政主導ではなく市民のとりくみとして発展してきました」「市民の活動が発展し、議会と連動し、それが流れとなって今に至っています」と、誇りを持って語られる職員さんの姿勢にも大変感銘を受けました。
条例の3本柱 有機農業の推進が特徴
今治市食と農のまちづくり条例の3本柱は「地産地消の推進」「食育の推進」「有機農業の振興」です。食と農に関するまちづくりのビジョンを明確にし、市の責務や、市民、生産者、食品関連従事者の役割を明確化し、具体的なとりくみがおこなわれる根拠となっています。
なかでもこの条例の大きな特徴としては、有機農業の推進と有機農産物の消費拡大を明確に位置付けていることで、「有機農業の推進」の障害となる遺伝子組み換え作物の栽培を事実上規制していることです。
学校給食センターから自校式へ
この3本柱の中心にあるのが学校給食です。先述したとおり24小中学校(2万1000食)分を提供していた大型センターから分離し、現在は21の調理場(自校式や親子方式などの小規模共同調理場)で1万3000食を供給しています。
食材についても地産地消を推進し、単独調理場への切り替えを契機に地元産農産物を優先的に使用するようにしてこられました。現在は今治市産の野菜の使用が約50%(重量ベース)を占めており、遺伝子組み換えとわかる食材の使用はおこなっていません。また立花地区の3つの小学校(鳥生小学校、立花小学校、吹揚小学校)には、有機農産物の導入がおこなわれています。有機農産物の使用の割合は令和3年で36・7%。現在は島しょ部でも、自然農法・有機農法で農業をやりたいという移住者の方々が増えており、こうした方々が生産された野菜等を使った「給食の日」もおこなっています。
給食の食材 コメも小麦も地元産
また市内の小中学校すべてで農薬・化学肥料を50%以上削減した今治産の「特別栽培米」がほぼ100%導入されており、「搗(つ)きたて」「炊きたて」で提供しています。ここで気になるのは価格です。特別栽培米はどうしても通常のお米より高くなってしまいますが、給食食材への導入については差額を公費で補填しています。令和5年度の予算は590万円です。
学校給食で使うコッペパンも100%が地元産小麦です。長い間アメリカ産、カナダ産などの小麦を使っていましたが、こちらも方針転換し、パン小麦の生産が始まり現在に至ります。今治市で一粒も生産されていなかった給食用小麦の生産が始まったということについて職員さんは、「これまでだったらお金の行きつく先はアメリカやカナダの小麦農家の方だったが、今治の農家が作る小麦に変えたので、小麦代は今治の農家に支払われるようになった。金額的には大したことはないけれど、地産地消により、外国にお金は流れず、今治のなかで経済循環がされている、小さなローカルマーケットが創出できているのかなと感じている」と語られていました。
給食で使う豆腐についても、外国産の「遺伝子組み換えではない」大豆を使用していましたが、これもパンと同様に生産を始め、地元産の大豆への切り替えがおこなわれました。ただ、大豆をつくっている農家が少ないため、重量ベースで今治産の大豆は1割強だということです。
そのほか、有機農業の振興のとりくみとして、農薬や化学肥料を使用しないことが入園の条件である「いまばり市民農園」のとりくみや、学校の農園での有機農業体験のとりくみをお聞きしました。
給食費は? 小学校で220~255円
続いて学校給食課から説明を受けましたが、農林水産課と重複する部分もかなりありましたので、割愛して報告いたします。
令和5年現在、共同調理場11調理場、単独調理場が10調理場、計21調理場で子どもたちの給食がつくられています。給食費は小学校220~255円、中学校が255~275円となっており、下関市と比較しても安く抑えられています。(下関市は小学生が295円、中学生が340円になります。)
給食の重点施策は、①衛生管理の徹底、②品質管理の徹底、③栄養管理に配慮した献立、④地産地消の推進です。とくに③、④については今治市特有のものであると感じましたので、ご紹介します。
今治市では、学校給食システムという給食管理システムを導入し、市内の21調理場がネットワークでつながっています。すべての調理場に栄養教諭、学校栄養職員が配置されており、市内統一ではなく調理場ごとに献立を作成しておられます。好評なメニューや地元食材をとり入れた献立などは、調理場間で情報を共有し、システムをうまく活用してメニューの多様化をはかっています。
また、学校給食を「生きた教材」とするために、献立作成の基本方針として、旬の地元産食材の活用や、調理済みの冷凍食品は極力使わないこと、出汁なども煮干しや昆布などでとるなどの「手作り」を心掛けておられます。このこととかかわって、今治市の自校式調理場の調理員さんの数は、200人規模で5人、500人規模で8人おられ、これはすべて市の直営です。下関市の場合ですと1校あたりの調理員さんは2~3人となっており、今治のように調理員を多く配置すれば人件費もかかるということは想像がつきます。しかし子どもたちに安全なものを食べさせよう、身体にいいものを食べさせよう、そのことで地元の生産者を支えようという基本方針がしっかりとあるため、「お金がかかる」という空気はありませんでした。このことについても考えさせられました。
栄養教諭・栄養士の配置も充実しており、21調理場で献立は異なっていますが、献立の年間計画を作成しこれをベースに献立作成や指導資料の作成をおこなっておられます。家庭科や保健体育等の時間に栄養教諭が成長期の食事や生活習慣病予防などを題材にした食に関する指導をおこなっておられます。給食の時間には各クラスを訪問し、給食や食べ物の話をして、子どもたちとコミュニケーションをとりながら指導をおこなっているそうです。小学校の新入生に給食の配膳の仕方や食べ方・マナーなどの指導をしたり、楽しい給食時間となるよう学級担任と協力し給食指導をおこなっているそうです。
こうしたとりくみの充実においては学校給食課と農林水産課の連携が不可欠です。食と農のまちづくり条例の趣旨を踏まえ、学校給食課では児童・生徒の健康増進、地元産品を活用した安全な学校給食の提供をおこない、農林水産課では、地産地消推進のため、学校給食用地場産品の補助をおこなうなど、「お互い協力しながら進めている」ということでした。
市の方針を共有し安全でおいしい給食を
その後、今治市の食と農のまちづくりのシンボルともいえる、地産地消型地域農業振興拠点施設「さいさいきて屋」(2007年オープン)に行ってみました【写真】。
夕方でしたが、ナス、キュウリ、長ネギなど、鮮度の高い野菜が並んでおり、肉や魚、お花や加工品も多数ありました。
施設を運営しており、学校給食の納入業者でもある越智今治農協の職員の方にもお会いし、生産者と繋がった農協としてのお話、また、学校給食納入業者としてのお話をお聞きすることができました。事前に市役所でお聞きしたことと重なる部分もあれば、納入業者としての視点で見たさいの継続性の課題なども教えていただきました。
全体を通じて感じたこととして40年にもわたり食と農のとりくみをおこなってきた地域として、さまざまな壁がありながら現在までやってこられていることを感じました。発展する時期もあれば、行き詰る時期もあり、現段階においても農家の高齢化や後継者不足により納入業務が困難になっていることなどもあり、市がかかわって解決しなければならない新たな課題もあることが伝わってきました。市側においても行財政の事情なのか、食と農のとりくみを進める部署が、室から課、さらに係へと縮小しており、先輩職員や関係者に対する申し訳ない思いも口にしておられました。市も関係者も今後の方向を探っているように感じとれました。
ただ、重要なこととしては、今治市の方針については納入業者側もしっかりと理解がありました。子どもたちへ安全でおいしい給食を届けたい、そのことによって地域の生産者を支えたい。これが一致していれば、今後生じる課題についても関係者間で協議のうえで改善されていくでしょうし、意識の転換が進む現在の状況のなかではますます注目される地域になっていくだろうと思います。
長くなりましたが、以上が今治市での視察内容についての報告です。詳しい資料が見たい方やもっと部分的に詳しく聞きたいという内容等ありましたら、ぜひお申し出ください。
私自身、下関市と比較しての疑問点等もありますので、今後も可能な範囲で教えていただこうと思っています。
興味深く読ませていただきました。下関も『住みたい中都市』ベストランキングで1位になってほしいものです。他の地域・都市についても、参考になるところがありましたら、ご教示いただければと思います。ありがとうございました。