一般質問のご報告「難聴児の教育環境について」【文字起こし】

9月20日におこないました、一般質問「難聴児の教育環境について」について、質問と答弁(要旨)の文字起こしを掲載します。

下関市での療育について

本池 聞こえにくい、聞こえない状態の難聴児にとって、専門的な知見にもとづいた支援がいかに大事であるかはいうまでもなく、とくに先天性難聴の子どもたちには出生直後から多くの専門家がかかわって本人や保護者の支援にあたっている。国も、近年、難聴児の早期発見・早期療育推進に力を入れており、令和4年に作成された難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針にはその目的として、「早期に発見し、適切な支援を受けることにより、自立した生活を送るために必要な言語・コミュニケーション手段の獲得につなげることが望ましい」と必要性を強調している。難聴児やその家族への支援について下関市はどのような考えを持ってかかわっているのか。

冨本福祉部長 本市は下関市障害者計画において、ノーマライゼーションとリハビリテーションの理念のもと、障害のあるなしにかかわらず、誰もが地域から必要な支援を受けながら、地域とのかかわりのなかで自分らしく暮らすことのできる街を基本理念としている。難聴のお子さんやその家族についてもこの基本理念のもとに支援をおこなっていく。

本池 難聴といっても程度はそれぞれで、その子一人一人にあった支援や教育が重要だ。そのため難聴確定後も検査をくり返し、その子の難聴の度合いや性格にあった指導・支援がおこなわれ、成長段階にあわせて言語の取得、今後社会で生きていくために必要な力をつけていく教育がおこなわれる。その難聴児の家族や支援者からの相談に応じたりアドバイスをする役割を中心的に担っているのが、下関南総合支援学校に山口県が設置している「聴覚障害教育センター」だ。ここが0歳~成人までの相談を受け付けており、とくに未就学児に関しては定期的な療育を担っている。

しかし昨年度末、療育を担っていた先生が定年退職となり、その後任がいないとの理由で療育が途絶える事態になった。こんなことは通常ありえないことで、3月末の保護者への説明会では不安の声が相当に出たという。なぜこんな事態になったのかセンターを設置している県の特別支援教育推進室に尋ねたところ、推進室も3月15日に学校から「教育相談を担当する教員がいない」との連絡を受けて事実を把握したというが、「学校のことなので」「個人に頼りすぎていたのでしょう」という対応で、来年度の体制についても「学校のほうで検討中」という答えだった。質問だが、下関市のさまざまな部局がこちらのセンターとかかわりがあると思うが、療育の「縮小」の件について連絡はあったのか。

磯部教育長 令和5年3月22日付で「聞こえに関する教育相談の運営について」の文書を教育委員会で受けとっている。令和5年度の乳幼児等の相談及び支援の実施について、運営体制が整っていない状態であり、今後の運営については関係機関と業務の見直しを含め協議している旨の通知だ。

冨本福祉部長 福祉部においても同じ内容の通知を受けとっている。

本池 この連絡を受け、なぜこのような事態になったのかを確認はされたのか。
磯部教育長 通知文書を受けとる前に山口県立下関南総合支援学校から3月末で言語聴覚士の資格がある方が退職するため相談体制の維持が難しいと情報提供を受けていたことから改めての問い合わせはしていない。

冨本福祉部長 福祉部も同じような説明を受けている。そのため確認はしていない。

本池 今の「なぜ」の部分なのだが、「退職したから」ではなく、なぜ後任がいないのかという確認をしていただきたかったのだがそれはしていないということか。

冨本福祉部長 その後の体制を協議中と聞いていたのでこちらからは聞いていない。

磯部教育長 通知のなかで聞こえに関する教育相談については中断し、実施方法等が決定次第改めて知らせるとあるため確認はしていない。

本池 このときにもっと確認をしていればその後の対応も変わっていたのではないか。人事については山口県の問題だ。しかし今、実際に困っているのは下関の子どもたちとその保護者だ。これまで療育を受けていた未就学の子どもたちに関しては、一時的に療育が受けられなくなっていたが、定年退職された先生が非常勤で来てくださったことで5月から再開した。ただ勤務時間が週2日の10時間となったことで、これまで月2回だった療育は月1回になり療育の機会は半減した。また新規の受付ができていないため、令和4年度の後半~令和5年度の最初にかけて生まれ、難聴と診断された子どもはセンターで療育を受けられていない。乳幼児健診を担当している保健部ではこうした事態の把握はされているのか。

八角保健部長 把握していない。

本池 この度の件に関しては、下関市として山口県に対して抗議してもいい内容だ。しかし、この間センターとかかわりがある部局に聞きに行ったところ、「その件についてはうちではわからない」という言葉を何度も聞いた。この問題を通じて、市のなかに難聴児やその家族が相談をしたり、案内を受けるところがないのだと感じている。そしてこれまで難聴に関する情報提供や幅広い相談に乗っていたのがセンターであり、そこにいた先生だったということだ。保護者からすればまさか自分の子どもが難聴など思いもせず、まず受け止めることから大きな山を越えなければならない。たくさん涙も流されたと思う。そんななかで相談に乗ってくれていた先生がいなくなり、療育も満足に受けることができない。「早期療育ができないのなら、なんのための早期発見なのか」と涙ながらにいわれるお母さんにも会った。

今、考えなければならないことは主に3つある。1つは、半減している未就学児の療育の機会の確保を県と市で一緒に考えること。2つ目は、来年度から後任の先生が来ない場合、教育は学校で、補聴器のメンテナンス等の医療については宇部医大でおこなう可能性が高まっているが、これまで療育は一カ所で済んでいたのに別々に行かなければならなくなり、その分保護者が仕事を休んだりする必要が出る。この負担の軽減を考えていただきたい。当然1カ所での療育が必要なのだが、それまでの対応としてこの2点について考えていただけるだろうか。

冨本福祉部長 この事業については山口県の責任をもとにおこなわれるべきと考えているが、状況によっては本市の既存の事業などでカバーできるものも含めて対応を検討したい。

本池 そして3つ目が専門的な教員の確保と育成だ。これを山口県に対して問題提起をしていただきたい。なぜこのような事態が起きたのかを関係機関に聞いて回ったが、一番大事な部分についてが曖昧で、原因に目を向けることを避けているようにも見えた。県の推進室は「退職された先生のようなスキルを持った先生が他にいない」と定年退職された先生がいかに優れていたのかということを強調されていたが、スキルを持った先生がなぜいなくなったのか。調べていくと、平成20年に聾学校・盲学校・養護学校を統合し、5障害に対応した「総合支援学校」に移行したことにより、障害種別に精通した教員が育たなくなっている問題が見えてきた。例えば、聴覚障害専門の先生が知的障害児を担当することもあるし、異動もある。障害を持つ子どもたちにとってもプロがかかわることで獲得できるものがもっとあるかもしれないのに、その機会を摘んでしまうことにならないだろうか。専門性を持った教員の育成ができなくなっている実情に目を向けなければ根本的な解決にはならず、保護者が必要としている1カ所での療育も実現はできない。現場を抱える自治体の責任として県に実情をあげるなど能動的に動いていただきたい。

冨本福祉部長 まずは下関南総合支援学校に現状を確認したい。そのうえで山口県に対しても確認をおこない、難聴のお子さんや家族の支援に関して必要な場合には総合支援学校と山口県に対し何らかの働きかけを考えていきたい。

新生児聴覚スクリーニング検査について

本池 次に早期発見に欠かせない新生児聴覚スクリーニング検査について質問する。この新生児検査だが、出産後3日ごろにおこなわれるもので、産院によって違いはあるものの3000~1万円ほどの範囲で全額自己負担となっている。負担感は大きいが、生まれたばかりの赤ちゃんの健康の状態はみんな不安であり、ほとんどの方が検査を受けている。一方で負担の大きさから検査を受けられない方もいる。

国は難聴児の早期発見・早期療養の観点から平成18年度までは国庫補助をしていたが、平成19年度からは地方交付税措置に切り替えて措置しており、令和4年度からは新生児聴覚検査費として交付している。まずこの費用がいくら入ってきているか、令和3年度から令和5年度の3か年について示して欲しい。

塚本財政部長 令和3年度までは少子化対策に関係する経費に含まれていたため正確な算定額は不明だが、令和4年度から新生児聴覚検査費として個別に算定されており、令和4年度は約238万円、令和5年度は約237万円だ。

本池 約240万円が公費助成のために入ってきているが、下関市では実施をしていない。なぜなのか。

八角保健部長 令和3年に本市医療機関で出生した新生児の聴覚検査の受検率は99・1%だ。地方交付税は使途を制限されない一般財源として自治体に交付されており、本市においてもさまざまな施策に要する一般財源の一部として活用している。新生児聴覚検査の経費が地方交付税措置されていることは承知しているが、現状の新生児聴覚検査の高い受検率に加え、他の事業との優先順位を考慮したものだ。

本池 公費助成の目的は国からどのように示されているか。

八角保健部長 公費助成の目的については把握していない。

本池 新生児聴覚検査にかかる受検者の経済的負担の軽減についてという通知が届いているはずだ。それには「受検者の負担軽減」とある。だからこれは受検率が高いことは関係なく「地方交付税としてくるものだからやってほしい」と保健部がいわないといけない。


本池 昨年公表された国がおこなった「令和2年度、3年度における新生児聴覚検査の実施状況について」の調査において、令和3年度の山口県の公費助成の実施状況は全国ワースト1位だ【グラフ参照】。令和2年度も同じくワースト一位だった。恥ずかしい話だ。その後は山口市などが実施を始めているが、依然として全国から遅れをとっている。下関市では10月からボートレース基金を財源にした子どもの医療費無償化が始まるが、新生児聴覚検査の公費助成分として国が財源措置をしているのだから、それをきちんと子どもたちのために使うことから始めてほしい。山口県の遅々とした状況には、産科を含む医療関係の方々からも批判の声が上がっている。こうした1つ1つの積み重ねが出生率に影響してくるし、経済的負担は子育て世帯を追い詰めてしまう要因にもなりかねない。国の調査によると、令和3年度現在で全国1741市区町村のうち1273市区町村で公費助成がおこなわれている。来年度からどうされるのか方針が決まっていれば教えてほしい。

八角保健部長 新生児に対する聴覚検査の公費負担の導入は子どもが健やかに育つための環境作りの一つとして重要なものであり、次年度以降については、現時点で見通すことは困難であるが、他の事業との優先順位を考慮しつつ検討しているところだ。

本池 検討のさいは初回検査のみならず、確認検査、精密検査の費用に関しても前向きに考えていただきたい。保健部によると、令和3年に生まれた子どもたちのなかで初回検査の結果、要再検査となった子は7人だ。決して確認検査の助成ができない数字ではないはずなので対応を考えていただきたい。

補聴器の購入費等助成制度について 

本池 次に補聴器の補助について質問する。聴覚障害を持つ方にとって必要不可欠な補聴器だが、とくに難聴児の場合これからの人生でずっと必要なものだ。下関市では補聴器の購入に対する補助をおこなっているが、補助の内容や対象機器に関していくつか課題が見受けられる。写真は補聴器本体と補聴器装用には必要な部品を集めたものだ。これほど部品が必要であるし、写真にはないが就学時には補聴器とつなぐマイク(10万円以上する)も購入する必要がある。まず、補聴器購入や修理に関する制度内容について示してほしい。

冨本福祉部長 補聴器は身体障害者手帳が交付されている方の場合、国の制度として補装具費支給制度の対象となる。利用者は厚生労働省の定めた基準額の一割の負担となるが、生活保護世帯や市民税非課税世帯では負担はない。市民税課税世帯でもひと月の負担の上限額は3万7200円だ。また身体障害者手帳が交付されていない方でも山口県の制度として軽度・中等度難聴児補聴器購入費等助成制度がある。
この制度は市内に居住している18歳未満の難聴児で、補聴器が必要であると医師が判断した方が対象になる。利用者は購入費の3分の1の負担となる。

本池 写真の部品のなかで制度の対象となるものはどれか。

冨本福祉部長 補聴器本体とイヤーモールドは助成の対象となるが、それ以外の部品は対象外だ。なおマイクについては学生が授業など集団のなかで声や音を聞く必要があると認められた場合はワイヤレスマイクが助成の対象となる。

本池 これほど必要なものはあるが助成の対象となるのはごく一部だ。とくに電池は約2週間で交換になるため、年間にすると結構な量が必要だ。以前は電池も助成の対象となっていたそうだが近年は自己負担になっている。助成の対象について利用者の声も聞きながら対応をしていただきたい。

そしてさらに踏み込んで軽度・中等度難聴児についてお聞きする。例えばマイクと受信機と補聴器を同時に購入した場合、合計金額は約40万円だ。これが手帳があれば自己負担は約4万円。さらに上限が設定されているのでそれ以下になる。かたや手帳なしでは約13万円が自己負担になる。難聴の程度が違っても同じように補装具を必要とするのに、軽度・中等度の子どもに関しては自己負担が大きすぎないだろうか。そして、軽度・中等度の難聴児は特別児童扶養手当の対象にはならない。特別児童扶養手当の要件には、「手帳がなくても対象となることがある」とあるが、難聴の条件は90㏈以上だ。90㏈以上とは手帳交付のレベルであって、他の障害との重複がない「難聴のみ」の障害を持った軽度・中等度の難聴児は対象からもれてしまう。

つまり、軽度・中等度の難聴児に関しては購入費等の負担も大きく、手当もないということだ。「軽度・中等度難聴児補聴器購入費等補助事業」「特別児童扶養手当」の内容についても今一度再確認するとともに、せめてこれらの子どもたちに自己負担額の上限をもうけてほしい。

冨本福祉部長 この件については、中途失聴で難聴になった方からも同様の要望をいただいている。現在、今後の検討課題ということで検討を進めているところだ。

本池 難聴児の教育環境について質問したが、子どもたち一人一人が幸せに生きる権利を持っている。そのために行政のみならず、さまざまな場所で子どもたちに献身的にかかわっている方々がおられ、保護者や支援者を支えている。こうした体制の中身を充実させていくことがなによりの障害者支援であり、形ばかり寄り添う格好をしてもそれは誰のためにもならない。「子どもたちの幸せに生きる権利を大人の事情で侵してはいけない」。これは市内で障害児にかかわっている関係者の言葉だ。最初に聞いた基本理念から見て、下関市の療育体制、スクリーニング検査、補聴器助成、これらのあり方はどうだろうか。下関市では令和3年に手話言語条例が制定されており、その目的には「手話及び聾者に対する理解を広げ、相互に地域で支えあい、安心して暮らすことのできる下関市を目指す」とある。これも大事だが、具体的な中身が伴わなければただの美辞麗句に過ぎない。

今回は難聴児だが、その他の障害についても、一人一人の子どもたちが尊厳を持って生きていくために行政がしなければならないことはなにか、困っている人はいないか、常にそうした視点で市民にかかわっていただきたい。

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