下関市のネーミングライツについて

近年、下関でも知らないうちに公共施設の名称が変わっていることが増えてきました。市民球場が「オーヴィジョンスタジアム」、向山小学校前の歩道橋が「典礼会館向山歩道橋」、海峡ゆめ広場が「オーヴィジョン海峡ゆめ広場」、駅前人工地盤が「日本セレモニーウォーク」など、はじめて名称を聞く市民にとっては「どこのことだろうか?」と思う方も少なくないと思います。「なぜ案内板がついたのかと思った」「どうして突然名前が変わったのか」「民間に売ったのか」という疑問の声をよくお聞きします。

ネーミングライツ(命名権)とは、自治体が財源確保を目的として公共施設の命名権を民間企業に与え、市の提示した希望金額(対象施設の維持・管理費などから算出)に応じた企業が期間限定で自社の名前やブランド商品名をつけるものです。海峡ゆめ広場は、2年9ヵ月で年間200万円。市道竹崎・細江線の命名権も、同じエストラストが購入して「オーヴィジョン海峡通り」となりましたが、料金は年間100万円です。

自治体にとっては財源が乏しい中で手っ取り早く収入が得られる手段ではありますが、同時に、公共施設の名称が次次にかわることによって市民生活に混乱をきたし、公共性が失われていくという問題があります。

全国で有名な例としては、東京オリンピックの会場として昭和39年に開設された「渋谷公会堂」があります。これは2006年から5年間の契約で広告大手の電通が命名権を取得しましたが、電通が飲料大手のサントリーに権利を転売し、その商品名をとって渋谷公会堂は「cc.Lemonホール」となりました。これには非難の声も多く、契約期間満了をもって再び渋谷公会堂に戻りましたが、今年から「LINE」が命名権を取得し新たに「LINE CUBE SHIBUYA」という名称に決まりました。

ほかにも東京スタジアムが「味の素スタジアム」になったり、神戸総合運動公園野球場が「ほっともっとフィールド神戸」になるなど、みなが慣れ親しみ大切にしてきた市民の施設がまるで企業の施設のようになることや、契約期間満了によって次次に名前が変わっていくことは考えものです。

公共施設は県民・市民の財産です。そもそも税金で整備された施設であり、それぞれに経緯や歴史があります。市民の利便性やその施設の存在意味とかけ離れたところで、特定の企業の名前がつくことは違和感が否めません。やはり公共施設は、特定の企業の宣伝に利用するものではなく、市民みんなのものとして誰もが公平に気持ちよく使える施設であるべきではないでしょうか? 

そもそも下関市でネーミングライツ料として年間数百万円を出せる企業がどれほどいるだろうかと思います。公共財を切り売りするようなことではなく、中小企業が元気になる経済政策こそ必要だと思います。

地方財政についての議員研修に行ってきました。

厳しい暑さが続いていますが、みなさまお元気でしょうか。

8月1日と2日に、博多で開催された自治体財政についての議員研修に行ってきました。

講師は立命館大学政策科学部教授の森裕之先生。今回の講座は初当選後10年未満の議員を対象としており、地方自治体の決算カードを見て財政状況を読み取るというものでした。自治体財政は専門用語が多く、一般にわかりにくいものですが、9月の決算議会をはじめ下関の財政状況や課題を知ることができると思い参加しました。

まず基本として、行政事務は国と地方が分担しておこなっていますが、歳出規模約100兆円のうち6割を地方財政で担っており、残りの4割を国が担っています。とくに、教育、福祉、衛生、消防など、住民生活に密接にかかわる分野はほとんど地方自治体がおこなっていますが、国民が納める税金(税収)を見ると、国税が6割、市県民税などの地方税が4割となっており、歳出割合と税収の「ねじれ」が生じています。

地方自治体が住民福祉をおこなうために足りない部分を補っているのが、国からの地方交付税や国庫支出金です。地方自治体では税収と地方交付税を財政基盤として行政がおこなわれています。地方での住民サービスは、国と地方が一体となって憲法25条にある「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を住民に保障しているということです。税収では足らない部分を補うのが国の責務であり、地方自治体は住民サービスを低下させないために必要な財源を要求していくことが大事だと述べられていました。

下の表は、下関市の平成29年度の決算カードです。この決算カードを見ながら、用語の説明や記してある数字からどういったことが読み取れるのかを教えていただきました。

下関市の場合に目立つのは、実質公債費比率の高さです。これは下関市が歳出のなかで借金の返済に充てている割合を示したものですが、参加自治体のなかではもっとも高かったです。合併後の庁舎建設なのか、人工島なのか、下水道の敷設なのか、自治体によって理由は違っているため下関の理由については聞かなければわかりませんが、他の自治体と比較しても「借金が多い自治体」になるようです。

実質公債費比率(借金返済に充てている歳出の割合)が10%を超える下関市

細々の説明を書くと非常に長くなるので省略しますが、一番重要なのは、今後地方財政をめぐる大きな変化が起きてくるなかで、自治体の自己決定が非常に重要になってくるということです。

なお講演のなかでは興味深い話がいくつも話されました。そのなかの一つで、多くの自治体で取り組まれている「公共施設マネジメント」についてのお話がありました。下関でも川中支所をはじめ、各地で公共施設の大削減が問題になっています。後日、整理してまたお伝えします。

 

川中支所移転の住民説明会に参加して

7月28日、川中公民館分館の講堂で川中支所移転に関する説明会がおこなわれました。下関市が2018年12月に策定した「公共施設の適正配置に関する方向性」のなかで、綾羅木本町の川中公民館分館と併設されている川中支所は川中公民館本館に移転し、建物は解体・撤去する計画になっています。

2月におこなわれた説明会にも参加しましたが、綾羅木地区の住民のみなさんのなかでは、公民館分館の撤去によって避難所が失われること、コミュニティ施設が失われることへの不安と、住民になんの相談もなく移転を一方的に進める行政への強い怒りが出されました。今回、市は改めて説明会を開いたのですが、前回の住民の思いに答えるものではなく、このたびの説明会も反対の声が相次ぎました。

もっとも意見が出されたのは避難所についてです。

川中公民館分館は災害が起きたとき最初に開設される避難所で、なにかあったら住民のみなさんが集まったり、支援物資なども届く場所です。移転によりそれが失われれば、綾羅木の住民のみなさんはどこに避難すればいいのか。今回、市はその代替場所として川中公民館(伊倉町)、川中西小学校を示しました。しかし、川中西小学校は土砂災害警戒区域に指定されています。その点についての意見が前回から何度も出ましたが、市が用意した回答は、土砂災害警戒時には「川中西小学校の体育館」を指定するということです。さらに綾羅木会館も新たに指定すると述べましたが、遠すぎるうえ狭いので、多くの人を受け入れることは不可能だといわれています。

「移転ありきの説明会ではないか。バス路線については綾羅木地区を通らないと意味がない。高齢者はこれから運転できなくなるので駐車場は問題ではない。あまりにも住民軽視ではないか。あなた方は下関市民の奉仕者として公共の利益のために勤務し、職務においては全力をあげて専念しなくてはいけない。綾羅木地区の住民を見捨てるのか。われわれの生活の拠点はこの支所だ。その回答がまったくない」

「以前から支所の移転の話はあった。別の場所に移転の話があり、どうなることかと様子を見ていたら、最近になって移転ではなくこの地域から支所そのものがなくなるということを聞いた。昨今、地震による津波が心配されるが、支所周辺に住んでいる人たちは支所をよりどころにしている。自治連合会の定期総会や敬老会もやってきた。役所の人たちはここに住んでいないから他人事だ。もう少しきちんと対応してほしい」

「川中支所周辺に暮らす高齢者が川中西小学校まで歩いていけると思うのか。たどり着く前にみんな倒れてしまう。一度でいいから自分の親を連れて歩いてみたらいい」

「以前は分館の一階にも和室や料理教室があったが、支所が狭いということだったのでみんな我慢して支所の改修に賛同した。人が集ってなにかをやる施設がないと地域は発展しないし、まちづくりを推進しているのは市ではないか。にもかかわらず、住民の交流の拠点をなくされるのか」

「平成4年に建てた川中公民館に詰め込むという考え方が信じられない。お金がないという話はあったが、ないのなら旧郡部の庁舎や勝山支所も建て、耐震対策を約束した本庁舎も違約金を払ってまで建て替える。綾羅木には一銭も落とさないのか」

「2年前にハザードマップをつくったとき、協議の結果ここに決めたのは市ではないか。なのに昨年末にここを閉鎖するという。決めておきながらやめるというのか。ハザードマップは印刷して26万人に配布したものではないか。どれだけお金がかかっていると思うのか。1年たたずに廃止などよくいえたものだ。私たちが勝手に決めたのではなく、市役所の人が来てが決めた。変更するなら代替場所を決めるはあたりまえではないか。地図の上で決めるのは簡単だがそこには血の通った人間が住んでいる。あなた方はなにもわかっていない」

このように、ひとりひとりが切実な思いを述べられていましたが、それに対して市の回答はあまりにも機械的なもので、そのことが余計に住民の怒りを買っていたように思います。下関市は今後20年間のあいだに公共施設を3割削減する計画を出しています。川中公民館分館だけでなく、体育施設、トイレ、公民館、学校などが集約や廃止となることへの反対の声を各地で聞いています。「お金がない」といって、これまで住民がよりどころにし、いきいきと活動していた施設を乱暴になくしていいのか。それは逆に地域の力を削いでいくことになるのではないでしょうか。そもそも市民の生命の安全がそろばん勘定で計られていいものでしょうか。住民の切実な声をもっと行政は重く考えるべきです。川中支所の移転計画は一旦白紙にし、住民と一緒に考え、答えを出し直すしかないと思います。